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今回は一般社団法人日本ウォーキング協会専務理事 井上成美氏をヨシタミチコ理事が訪ね、お話をうかがいました。

ヨシタ
高齢化が進むなか、健康維持のためにできる手軽な運動として、ウォーキングは今や常識とも言える時代になっています。貴協会の前身である「歩け歩けの会」「歩け歩け運動」が始まった当初から、ウォーキングの効果をどのようにとらえていらっしゃったのですか。
前回の東京オリンピック(1964年)当時は、運動というと体を激しく使うことによって鍛えるという考え方があったように思います。また、高齢者や病気の回復期にある人などのリハビリという考え方も、現在とは違っていたのではないかと思うのですが、協会が発足したきっかけや、これまでの歩みについて、お話いただけますか。
井上
発端となった「歩け歩けの会」は、早稲田大学の学生が始めたものでした。大隈重信の言葉に「学問は脳、仕事は腕、身を動かすは足である」というものがありますが、自立歩行することが脳も活性化すると考えた学生たちが歩き始めたのが会の始まりです。
古来、文学者や哲学者は歩きながら思考をまとめたという逸話がいくつもあります。ソクラテスや、発明家のエジソンなども悩んだときには歩いたと言われています。「歩け歩けの会」で歩き始めた学生の中には、アメリカを横断した人もいました。当時は、スポーツ医学という分野もなかった時代ですが、スポーツ界の人々にも賛同を得るなどしながら、今日のように生活習慣病予防のような取り組みにまで発展してきたのです。

ヨシタ
現在は内閣府所管の社団でいらっしゃいますが、かつての監督官庁に環境省が入っていたというのが、非常に興味深く感じました。これは、歩くことで自動車や発電による排ガスを減らすことで、環境保護につながるということでしょうか。

井上
かつての監督官庁には環境省と厚生労働省が入っています。単に歩けば省エネになるということだけではなく、健康ウォークとツーリズムがそもそもの原点になっています。どこかに移動するとき、自動車や列車では風景は一瞬で通り過ぎてしまいます。歩くことで、その土地、その季節の自然に触れることができ、自分の国土を知ることにもなるのです。歩かなければ見えてこない感動というのが必ずあります。
発足から間もない頃に、この会のことを朝日新聞の記者が天声人語で取り上げてくれたのですが、その際「歩けば風の色が見えてくる」という言葉で歩くことの意義を表現していただきました。この言葉は、現在、日本ウォーキング協会の活動のキーワードにもなっています。

ヨシタ
「歩きたくなる道500選」という協会認定のウォーキングコースが非常におもしろいと思います。全国各地のルートを踏破する方もいらっしゃるのではないしょうか。また、各地方の魅力を伝える役割も果たしていらっしゃるように思います。

井上
これは、実際にウォーキングをしている人が選んだもので、今後、「1000の道」にまでなるようにと思っています。道というのは、文化を運んでくるものです。他の地域との交流は道があるおかげで可能になります。昔、その道であったできごとや歴史に思いを馳せながら歩くのは、非常に楽しい時間です。それぞれの道に物語があると思います。
すでに全国1800市町村、46都道府県からの協力を得て活動していますが、さらに行政などと連携しながら、地方創生の意味も含めて活動を広げたいと思っています。
ヨシタ
現在、大人の健康増進だけでなく、歩育コーチなど子どものウォーキングにも力を入れておられますね。歩くことによる子どもの成長への影響というのは、やはり大きいものでしょうか。

井上
子どもたちにも、歩くことを通して自然と触れ合う体験をしてほしいと思っています。自然には人の力の遠く及ばない美しさがあります。山の頂きに残る雪の白さや、木々の緑、花の色やせせらぎの音、こういうものに感動する心を養ってほしいと思います。

ヨシタ
日本色彩環境福祉協会は、「色で心を豊かに幸せにしよう」という活動をしていますが、歩くことは、車や電車での移動と違い、周囲の景色をゆっくり楽しむことができる運動でいす。四季の自然の移ろいなどを感じながら、体も健康になれるというのが魅力ですね。ウォーキングを行いながら、自然の色彩に触れるなかで、色の力を感じることはありますか。
井上
日本は、四季折々に自然の色があり、独特の染色文化を持った国だと思います。たとえば、衣の色を桜色に染めることで、桜の季節が終わっても、桜色の衣を眺めることでその季節を思うことができる、そんな文化を持っていたはずです。ただ、現代はどこに行っても無機質で同じような風景が多くなってしまいました。そういう環境で生活していると、五感はどんどん鈍くなってしまいます。ルソーが「自然に還れ」といったように、ゆっくり自然と向き合いながら歩くことによって感覚が研ぎ澄まされ、本来の五感が取り戻せるのではないかと思います。そういう意味でも、環境の色、歩きながら目に入ってくる色の力は日々感じています。

ヨシタ
自然の風を感じながら歩くという理念が、とても素晴らしいと思います。当協会でも、歩く人に役立つ色の提案をしていけたらと思います。今日は、ありがとうございました。

一般社団法人日本ウォーキング協会
http://www.walking.or.jp/