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色彩トップインタビュー

今年81歳を迎える現在も現役イラストレーターである田村セツコ先生をヨシタミチコ理事が訪ね、お話をうかがいました。

ヨシタ
「孤独をたのしむ本」を楽しく拝読しました。セツコ先生は、すごく読書家でいらっしゃるんですね。フランスの哲学者、アランの名前がごくごく自然に出てくるあたり、素敵だなと思いました。

田村
「アランの『幸福論』が好き」というと読書家だって言われるのですが、気になった本を拾い読みしているんです。『幸福論』には、二人のマリーが出てきます。悲しくてため息をついているマリーと嬉しくて嬉しくてしょうがないマリー。でも、このマリーちゃん、実は一人の子なのです。一人の人間が楽しいときも悲しいときもある。そして、それは案外、体のバイオリズムに関係していることがある。悲しみと喜びはかわりばんこにやってくるんだから、行動することで解決することがある。落ち込む原因は、実は心じゃなくて体なんだということを、
『幸福論』は教えてくれるんです。

ヨシタ
アランの『幸福論』は、今日の人々にも響くものがありますね。「 怒りと絶望はまず第一に克服しなければならない敵である」とか、「微笑むことや肩をすくめることは、思いわずらっていることを遠ざける常套手段である」など、今を生きるヒントがたくさん詰まっていると思います。セツコ先生は、本のなかにも「お気に入りのフレーズを貼り紙にしてみる」と書いていらっしゃいますが、『幸福論』以外にも、ご自身の「お気に入りのフレーズ」がありましたら、教えてください。

田村
お気に入りフレーズのひとつに、『赤毛のアン』に出てくる「私って、楽しもうと固く決心すればいつでも楽しめる性質(たち)なんです」というアンの言葉があります。
この「楽しめる性質(たち)っていうのがいいでしょう? 『赤毛のアン』や『長靴下のピッピ』は、今も大切な友達です。

これは、ある方が本の題名にしていらしたのですが、「たゆたえども沈まず(Fluctuat nec mergitur)」っていう言葉が、今、ちょっといいなと思っています。これは、
パリ市の紋章にも書いてある言葉なんですけど、「どんなに強い風が吹いても、揺れるだけで沈みはしない」ことを意味しています。もともとは、水上商人の船乗りの言葉だったのですって。

ヨシタ
心がゆるく、たゆったっているような状態であることは大切なことですね。
「心に旅をさせる」、「ゆるく考える」、「ふーっと力を抜く」ということは、何もかもがスピード重視の現代に非常に大切なことだと思います。ただ、若いうちは、なかなかゆったりした気持ちになれない人も多いのではないかと思います。このような気持ちになれるようになるには、やはり年齢を重ねる必要がありますか? 若い人でも、力を抜いて生きるためのヒントを教えていただけないでしょうか。

田村
私は子どもの頃、4回転校して、クラスでお友達ができなくて、日記帳が話し相手でした。だから、おしゃべりを日記帳につけるくせがあります。不運な境遇や、与えられた環境に不満があっても、生活のなかで工夫をすることで楽しみを見つけてきたんです。ただ、若い人の悩みもわかります。自分の若い頃のことを考えたって、ブルーになったり憂鬱になったりすることが多かった。でも、それが若さの特徴。若いから悩むんだとも思うんです。悩んで、そこから這い上がっていくのが若者だと思うけれど、なかには心が折れちゃう人もいますよね。

テクノロジー全盛の現代では難しいことかもしれませんが、今だって、空を見上げれば星があって、月がある。都会のなかでも自然を感じることが大切だと思います。一歩外に出れば、キラキラとした自然があるのに、もったいない。オスカーワイルドも「我々は汚水槽の中に住んでいるが、その中の何人かは空の星を見つけることができる」と書いています。ときにはネットから離れて、ペンと紙に手で文字を書いてみるといいですよ。心がふっと落ち着きます。

ヨシタ
「お洋服は自分でつくる」というのも、セツコ先生らしいですね。いつも、かわいらしい少女のような雰囲気をまとっていらっしゃいますが、セツコ先生のファッションセンスの磨き方を教えていただけますか。

田村
ファッションには時代によって少し流行を採り入れたり、スカート丈が変わったりはしますけど、基本は変わらないんです。白いブラウスにベストとスカートが落ち着くスタイルです。お店に行ってもほしいものがないんだから、人が笑っても関係ない。私は仕事でイラストを描いているので、イラストでいろんなお洋服を描くとそれで満足してしまうみたいです。自分のものはなくてもいいんです。

ヨシタ
日本色彩環境福祉協会では、「色でしあわせ」をキーワードに活動をしています。イラスト制作に色彩は不可欠なものだと思いますが、セツコ先生ご自身は、どのような色づかいに「しあわせ」を感じられますか。

田村
私は水瓶座なので、ブルーとグリーンがラッキーカラーらしいのですが(笑)、そのせいかどうかは別としてブルーとグリーンがあると落ち着きます。おもしろいのは、焦って描くとブルーとグリーンが多くなる傾向があって、特に疲れているときにそうなっているということに気がつきました。私にとっては、パープルやピンクは難しい色なのですが、ブルーとグリーンは使いこなせる色だなあと思います。

ヨシタ
協会の活動で、認知症の方と一緒にコラージュ作品づくりを楽しむ時間を持つことがあります。そういうときに、色に触れながら創作活動をすることは、たとえ認知症になっても、ひとに喜びを与えてくれるものだということを強く感じることがあります。
セツコ先生とっては、絵を描くこと、色彩に触れることは、どのような意味を持っていますか?

田村
イラストレーターの仕事を始めて50年以上が経ちました。私は絵の具のパレットを見ながら絵を描く仕事ができて幸運だと思っています。色を塗っている間、絵を描いている時間は、仕事のつらさはなくて、遊んでいるような部分があります。もちろん、締め切りはありますが、どこか100%大人じゃない、子どもの遊びのような仕事ができることはしあわせなことだと思います。
協会の活動をお聞きして、認知症の方でも自分の個性を表現できることは素晴らしいと思いました。

ヨシタ
何歳になっても現役で、社会と接点を持ちつつ、ひとりの暮らしも楽しむ術をお持ちというのは、現代を生きる人のお手本のような人生だと思います。そんなふうに年を重ねる秘訣がありましたら、教えていただけますか?

田村
私はおばあさんになるのは楽しみだと思っています。私のイメージするおばあさんって、ちょっと怪しくて、不気味で、魔法使いみたいな感じなので、何を考えているかわからないようなところも、おばあさんの魅力のひとつなんです。
私が思う人生の秘訣は楽観主義。以前、イラクで拉致されたフランス人の女性記者が、5ヶ月の人質生活を耐えたことを記者会見で話しました。そのときに、「絶望的な気持ちになったことはなかったか?」と聞かれた彼女は、「いいえ、ちっとも」と答えたんです。私は、彼女のなかに楽観的に物事を考える「知性」を感じました。苦しいときに沈まないことは、とても大切なことだと思います。
年を取れば当然、頭も衰えてわからないことが増えたりします。そういうときに、私は不思議の国のアリスになったんだわと考えれば、「ひとり暮らしの81歳、毎日が冒険」と思うことができるんです。

ヨシタ
お話をお聞きして、色彩に囲まれて楽観的に暮らすことの大切さが、本当によくわかった気がします。今日は、ありがとうございました。