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色彩トップインタビュー

日ピアニストの岩島富士江先生をヨシタミチコ理事が訪問し、お話を伺いました。

 

「人生は自分の物語。音楽、絵画、文学、芸術につながる絲が宇宙から降りてくる。」

ヨシタ 岩島先生は、長年にわたり演奏家として、教育者として、日本のクラシック音楽の世界を牽引してこられましたが、音楽家を目指したきっかけ、ピアニストになられたきっかけなどがございましたら、お話いただけますか。

岩島 そんな大それたことを私は何もしていないのです。小さい時は一人で歌うのが好きで、夕焼けを見ながら「七つの子」や「叱られて」など歌っては感動して泣いていました。父母が音楽好きだったのか、6人兄弟の3人がピアノ、3人がヴァイオリンを習っていました。 私がピアノを始めたのは5年生の秋でした。超未熟児だった私は弱くて小さくて体力がなく、小中高は休みがち。父のすすめで大学は音楽科に進みはしたものの、長時間の練習、競争に耐えられず、いつも自分の居る場所を探していました。
結婚して憧れの二児の母になった30代、すべてがゼロに戻る「育児、家事」に、こんなはずではなかったと初めて自分のために隙間を見つけてピアノに向かったのです。そして、大学時代耳に残っていた美しい音色の坪田昭三先生の門を叩き、先生の音、手つき、歌に「これだ」と密かに大きく開眼したのです。その間、教えることは好きで、生徒の音作りには時間をかけました。諦めない「不可能なことはない」と。

子育ても終了、主人の社会活動への助走も終了、生徒も成人して、60歳近くなって初めて自分のための時間ができました。そして、あらためてピアノを弾こうと発車したのです。何事も人より遅れての発車なので、前途はこれから。それに私は興味のある面白いことが多すぎて、なかなか「一芸に秀でる」までいかないのです。でも、私の場合、マイナスが逆のエネルギーを生んで、プラスに変化するという音楽人生でした。

 

モーツアルトは流れ星のように輝いて天空を駆け抜ける天使の笑い声

ヨシタ 先日の演奏会では、モーツァルトがまだ子どもの時に書いた曲や、母親を亡くした時期に作曲した曲、また「きらきら星」として知られる曲が実は恋の歌だったなど、解説を交えた演奏が、たいへん興味深く印象に残りました。今、モーツァルトに取り組んでいらっしゃる理由などがありましたら、お聴かせいただけますか。

岩島 私は積み上げることのできない弱い体質でしたから、考え続けるとか練習し続けるとか、厚みのある努力に向いていません。だから瞬間的に美しいもの、桜、花火、そして「流れ星のように輝いて天空を駆け抜ける天使の笑い声」的なモーツアルトが好きなのです。モーツアルトは勝手に走って行く美しさ、余分なものも足りないものもないシンプルな美しさ、決して食い込んでは来ないけれど人の心を魅了するのです。
大好きなモーツアルトの会に誘われたのがきっかけで、モーツアルトK.1(ケッヘル1番。ルートヴィヒ・フォン・ケッヘルによるモーツァルトの作品目録による分類。)からのピアノ音楽の歴史連続演奏を始めました。5歳のモーツアルトと共に成長して行きたい願いとともに、モーツアルトの歴史を会員の皆さんの耳に流し込みたい私のいたずら心からでした。
音楽は「音を楽しむ」と書きます。作曲家は音を楽しんで書き、演奏家はそれを楽しんで弾き、その音を手渡しして、聞く人が音の中で楽しんで下されば理想の姿です。
そういう意味で、私はこれからも自分の弾いて感じたことをお話ししながら、「音楽案内コンサート」を続けていこうと思っています。

 

音色彩からつながる作曲家色

ヨシタ 岩島先生は、フランスに暫く滞在しておられたとも伺っております。クラシック音楽のなかでも、特にフランス音楽の特徴とはどのようなものと感じていらっしゃいますか。また、フランス滞在によって、岩島先生の音楽に何か変化はありましたか。

岩島 それは、まさにカラー「色彩」です。フランスは、どんな田舎でも街路樹があり、色彩統一、その街のカラーがあり、美しい街並みがあります。そこで育った音楽家たちの演奏には色彩感があるのです。それは、「音色」というものを大切にする感性と教育が生み出した宝物です。
日本の私たちの時代の音楽教育は、1に練習、2に速度、3にメリハリ、4にスムーズというように音楽を外から作る教育で、音色という言葉はありませんでした。フランスでは、音楽を内から聴く教育、耳を傾けて音色を探す、作曲家の作る和音変化を聴く、これが音楽の色彩につながるのです。
和音は音楽の土台となるもので、この変化に耳を傾け、楽譜から色彩を読み取り、響きの遊びを楽しむ。これがフランス音楽です。
総じてフランス音楽は色彩的で美しい、厚みのある哲学的思考ではなく、瞬間的な響きの遊びでもあります。この点でモーツアルトとつながるラインが引かれているようで、私は好きなのです。

 

色光彩から和音が聞こえる。モーツアルトはうすい空色ブルー、シンフォニーは瑠璃色

ヨシタ 日本色彩環境福祉協会では、「色でしあわせ」をキーワードに、色彩を通じて福祉を実現することを目指しています。岩島先生は、「モーツァルトはうすい空色ブルー、シンフォニーは瑠璃色」というように楽譜の表紙を色で分けていらっしゃったとお聞きしました。また、「色光彩から和音が聞こえる」とも表現されています。
音楽と色とが、どんなふうに音楽家のなかで交差しているのか、とても興味深く感じます。そのあたりを詳しくお話しいただけますか。

岩島 色彩福祉とは素敵な言葉ですね。すべての人に対する愛情とセンスに感動します。モーツアルトの和声変化のリズム、ドビュッシーの和声変化のリズムが、ピアノの白鍵7、黒鍵5、このたった12音しかない音を使って、モーツアルトらしさ、ドビュッシーらしさになるのですから、作曲家は音を操る魔法使い、どうしても「その作曲家色」になってしまうからミラクルです。
私の楽譜の色表紙は、この音色彩からつながってきた作曲家「色」なのです。一時期、1000人の方にモーツアルトを色で表してもらう色集めをしていましたが、この時は、1000人1000色と言わんばかりに、白、黒、青、赤、黄…とすべての色が出てきました。
柔らかい色、固い色、濃い色、薄い色…
陰の音、日の当たる音、光の弱い音、強い音
それらが、黄なのか、ブルーなのか。
ピアノではキーへの指のさわり方、腕や手の重みの掛け方によって、耳の助けを借りながら、響きの色分け、弾き分けをします。ピアノは「さわり方の接触芸術」とでも言えます。音の響きの変化、作曲家の持つ色彩、これをどうさわって表現して行くかを、先に分かった分、生徒に早道として伝えるのがピアノ教育だと私は思っています。

 

物語も、思い出も自分で作るもの

ヨシタ 協会では、色を通じてすべての人がこころ豊かに暮らせるようにと考えています。色彩や音楽など芸術の分野が、これからの未来に向かって人々の暮らしの中で果た
す役割とは、どのようなものだと思われますか。また、これから芸術家を目指す若い人たちに、どのようなことを伝えていきたいとお考えですか。

岩島 素晴らしい協会のお心ですね。私も音色彩、音楽でお役に立てたらとても嬉しいです。
人間社会というのは、かなりしっかりと横でつながっています。でも、そのような横線の中にあって、自分一人で心地よく縦につながっていけるものがある、それが芸術であると私は思っています。
私は、モーツアルト、ドビュッシー、ショパンと自分だけで縦につながっています。音、色、文字など芸術は、宇宙にいっぱい居て絲をたらして待っていてくれるものです。横の線に縛られないで個人的に縦につながっていられるものは、自然の中にも、天空にも、空気の中でさえも、いっぱいあります。音楽でも絵画でも文学でも、自然でも、ひょいと自分だけのものを捕まえてつながりを持ち、横の束縛から縦の線へと脱出してはいかがでしょうか。
人生は自分の物語、物語も思い出も自分で作るものだと私は思っています。
横線に居るあなた、上を向いて縦の広い世界に伸びていき、自分物語、自分の思い出を作りましょう。

ヨシタ 誰もが自分らしい芸術とのつながり方を持てたらいいと思います。今日は、ありがとうございました。