色彩トップインタビュー

ハリフネ原宿しんふね鍼灸治療院の院長新船敬洋氏にヨシタミチコ理事がお話を伺いました。

鍼灸は魚の骨や木の枝、尖った石などで
体を刺激することから始まりました。

ヨシタ 鍼灸は漢方とならぶ東洋医学の一分野で、中国を起源とするものですが、どのような歴史がありますか。陰陽五行説を基礎としているのでしょうか。

新船 陰陽五行説は物の考え方の基本で、それを医学に取り入れたのが東洋医学です。科学的な考え方のなかった時代に、火は熱いなど自然の性質を治療に活かそうとしたものです。鍼灸で使われる針も、大昔は魚の骨や木の枝、尖った石などを体に当てることから始まりました。尖ったもので体のある部分に刺激を与えると痛みがとれるなどの効果があるようだということから、次第に医療として体系化されてきたと考えられます。

ヨシタ 誰かが発明したというものではないのですね。

新船 そうです。自然発生ですね。体のなかの地脈、龍脈の流れを表した経絡というものがありますが、これも目に見えるものではありません。経験的に「こんな流れがあるだろう」というように考えられてきたものです。
このような経絡も、ある箇所に刺激を与えると特定の箇所に反応が出るという反射としてとらえると、現在の科学でもおおよそ正しいだろうと考えられています。

飛鳥時代、遣隋使によって
鍼灸が日本にもたらされました。

ヨシタ どの病院でも付き添いが求められるのですか。

新船 日本に鍼灸が入ってきたのは、飛鳥時代のことです。遣隋使によって、仏教とともに伝来しました。面白いことに奈良時代には、朝廷のなかに「針博士」という役職がありました。つまり、宮中では皇室の方々や貴族も鍼治療を受けていたことがうかがえます。
しかし、この鍼灸が戦国時代に一時期衰退してしまいます。というのも、鍼灸は刀で切られた傷や矢で刺された傷のような重症を治療するのには向かないからです。

ヨシタ そのあたり、西洋医学と東洋医学の違いともいえるでしょうか。

新船 そうですね。鍼灸などの東洋医学は体のバランスを取ることが得意ですが、ある種の病原体による疫病などの治療は西洋医学が得意とするところです。
江戸時代になるとオランダの学問である蘭学が入ってきますね。体の外から入ってきたウイルスや細菌のような病原体に対して投薬で治すとか、下水工事など治水を行って衛生的にすることで病気を防ぐといった西洋医学の考え方が入ってきて、日本の医療の考え方にも変化が起こります。それまでは、祈祷やまじない、また、薬効のある植物で染めた衣服を着ることなども治療の一環である時代もありましたが、江戸時代に医療は大きく変化したと思います。

ヨシタ 江戸時代を通して、鍼灸には何も変化がなかったのですか。

鍼灸は非観血的外科治療です。

新船 変わらないのは、もぐさの製法です。ヨモギの葉の裏にある細かい綿毛を集めて作ります。良いもぐさは、やわらかい暖かさですが、品質が悪いと非常に熱くなります。温熱療法として温めるだけなら、もぐさにこだわる必要はないようにも思えますが、ヨモギの精油成分であるシネオールが皮膚から取り込まれて血管拡張の作用があったり、リラックス効果があるということで、やはりもぐさがお灸に適しています。
江戸時代に日本で大きな変化を遂げたのは、鍼治療です。鍼治療は、血の出ない極小の外科治療なんです。非観血的外科治療と呼ばれます。これは、徳川綱吉の侍医も務めた杉山和一が編み出した管鍼法によって、非常に繊細な刺激をすることが可能になったのです。

病気かどうかわからないような不調は
鍼灸治療がよく効きます。

ヨシタ 「なんとなく体調が悪い」というように、はっきりとした病名などがない場合でも治療は可能ですか。

新船 病名がつかない「○○症候群」と呼ばれるような症状は、非常に鍼灸治療に向いています。東洋医学は、バランスの崩れたものを調和させるのが得意です。まだ病気とまでは言えないような「未病」という状態で、鍼灸を受けるのが効果的です。片方に傾いたものを元に戻すのが東洋医学の良いところだと思います。
鍼灸は「体のベクトルを変える」ような効果があると思います。傾いてしまった体を「こっちのほうに向いたほうがいいよ」と、ベクトルを変えてあげることができます。そのあとは、ご自身の体が回復に向かっていくのです。
最近の若い方のなかには、何か薬を鍼につけて体に入れているのではないかと思われる方もあるのですが、鍼はただの金属です。
ある神経を興奮させると、別のところに反応が出るという反射のメカニズムを使って、それを非常に細かくおこなっていくのが鍼治療なのです。

ヨシタ 世界的に東洋医学への関心が高まっていますね。治療院にもインバウンドの患者さんが多数来院されるそうですが、どのような目的で来院されるのですか。

新船 一度、どこかで鍼灸を受けたことがあるとか、家族が鍼灸で痛みが治ったのを見たことがあるという方が多いですね。海外の方の間でも、鍼灸は、ある種の呪術的な意味合いのものではなく、治療効果のあるものとして認知されていると思います。
印象に残っているのは、コスタリカの女性で飛行機のパイロットをしているという方です。次のフライトまでの空き時間に「全身がおもだるい」と言って、成田空港から来院されました。まさに未病の状態で、何をしても疲れが取れない、ストレスが多くてよく眠れないということでした。

いつまでも元気でいるために
よく食べ、よく働くのが養生訓です。

ヨシタ 昨今、何歳になっても元気で働くことが求められるようになってきました。年齢を重ねても元気でいるために心がけるべきことがあれば、教えてください。

新船 いろいろな患者さんを診ていて言えることは、高齢でもよく食べる方は長生きします。「よく食べ、よく眠り、よく出し、よく動く」というのが養生訓だと思います。小食になると、やせ細って体力がなくなってしまいます。また、便秘や下痢は、体力を消耗させますので、しっかり食べて、しっかり出すということが大事です。
それに加えて「よく動く」ことです。「動く」というと、「散歩すればいいですか?」などと聞かれますが、できれば、人の役に立つようなことをするほうがいいのです。ですから、「働く」ことをお勧めしたいと思っています。
英語などのlabor(労働)には、奴隷の苦役のような意味がありますが、日本では「働くこと」は神事につながります。掃除でも、稲刈りでも、ひとつひとつが神様に捧げる働きと捉えることができるので、そんな風に考えて「誰かのために働く」ということをしていることが健康につながっていくのではないでしょうか。

嫌いなものリストを作ると
好きなことを見つけることができます。

新船 人生100年時代に、好きなことで生きていけたらいいですよね。好きなことが見つからないという人は、「嫌いなもの」を挙げてみるといいと思います。嫌いなものって、年齢を経ても意外に変わらないので、それをしない生き方を選んでいるうちに、好きなことが見つかるということもあると思いますよ。

ヨシタ 今日は興味深いお話をありがとうございました。

ハリフネ原宿しんふね鍼灸治療院