色彩トップインタビュー

サンフランシスコ在住の作家アントラム栢木利美氏に田口さつき編集長がお話を伺いました。

クリエイティブな仕事がしたくて入ったのに
広告代理店では経理に配属されました

田口 アメリカ、ハリウッドで雑誌リポーターとして活躍されていらっしゃったそうですね。その当時、女性が海外で仕事をするときの環境はどのようなものでしたか。

栢木 それにはまず、日本での仕事から話を始めなければいけないですね。私は林真理子と同級生なんですよ。当時の私たちは、女性でも世の中に出て何かしたいと考えていたんですね。それで、日大芸術学部を出たのでクリエイティブなことがしたいと思って広告代理店に入りました。でも、そこで配属されたのは、経理部だったんです。それで、すごく落ち込んでしまって。でも、このままではダメだと思って、働きながら夜はコピーライティングの学校に通い始めました。
その頃、レブロンのPR誌でスタッフを探しているというので、応募したのです。ですから、広告代理店で経理の仕事をしながら、雑誌編集の世界に入りました。そこから、いろいろな人との出会いがあって、その後、電通で女性向けの手帳を作るという企画に入ることになったので、それまでの広告代理店を辞めたのです。電通の仕事をするようになった後、ある人から「ハリウッドで仕事があるけど、行ってみたいか?」と言われました。
アメリカに行くと言っても、フリーランスの立場でしたから、何の保証もありませんでしたが、当時の私は飛び込んで行ったのです。

アメリカでさまざまな場所で働く女性たちに
インタビューしてできたのが
『女にできない職業はない』という本です

田口 アメリカでの仕事の後に、『女にできない職業はない』という本を出されていますね。女性として、どんなふうにアメリカで仕事をされてきたのですか。

栢木 1970年代の後半、バイリンガルの若手映画評論家だった大前淳子さんのアシスタントとして、ジェーン・フォンダをはじめ、数々の映画スターにインタビューしました。カメラやテープレコーダーを担いでの取材です。大前さんは、サム・ペキンパー監督に気に入られていて、大物スターとも会うことができたんですね。
そんなふうにアシスタントとして仕事をしながら、アメリカで気づいたことがありました。それは、ふと見回すと、電気工事で野外の設備を直している人も女性、郵便配達員も女性、軍人だって女性がいるし、テレビをつければニュースキャスターにも女性がいて、男性より迫力があるみたい。どんな職業にも普通に女性がいるのです。

田口 今でこそ、タクシー運転手さんなどに女性が増えたなあと思いますが、日本では昔から「この職業は男性しかできない」というような風潮があるように思います。

栢木 私なんか、学歴があってもやりたい仕事に就けなかったわけです。広告代理店の社長に「女は3~4年で結婚して辞めていくんだから、そういう人に投資はしない」と言われたような時代です。
アメリカに来て、これは日本と全く違う世界だと思いました。男性も女性も同じ仕事をしているんです。そこで、さまざまな職業の女性にインタビューしたいと思ってまとめたのが、『女にできない職業はない』という本だったのです。

アメリカと日本をつないでオンラインでお話をお聞きしました

アメリカの仕事の面接では、
人種も学歴も問われない
問われたのは熱意だけでした

田口 女性が仕事をする環境で、日本とアメリカとの違いがありますか。海外で仕事をしたいと思う人にアドバイスがあれば、教えてください。

栢木 アメリカでは、さまざまな人種の人がいるのが当たり前なんです。ですから、日本人だからどうだとか言われることは最初からありませんし、そもそも、学歴を含めてその人の背景が問われることはないんですね。面接の機会は平等に与えられます。そこでしっかり自分のスキルをアピールできれば、かなりの確率で道は開けます。
面接で何が見られるかと言えば、それは「熱意」です。どれだけその仕事を得たいのか、そこが大切なのです。私の友人は、ある面接の時に、面接官に壊れたハイヒールを見せて、「私は新しい靴が欲しいから、この仕事を受けに来たんです!」と言って、面接に通ったそうです(笑)。

田口 日本の就職面接では、ちょっと考えられないような光景ですね。日本人は、自分をアピールするのが苦手な人が多いように思います。

栢木 私の経験を振り返っても感じることですが、アメリカでは他人の良いところを褒める文化があると思います。さまざまな場面で、いろんな人が褒めてくれる。その体験があるから、自分にはこれだけのことができるんだなとか、こういうことに長けているんだなと感じる機会が数多くあるのです。それが、自分をアピールできる根拠になっていると思います。一方、日本では、あまり褒めてくれませんよね。だから、自分が「これができる」っていうことを実感しにくいんだと思います。

日本の生活の知恵を紹介した
『Green Tea Living』で
ベンジャミン・フランクリン賞を受賞

田口 著書『Greem Tea Living』では、日本の生活文化を紹介されましたね。「地球の日」の本として選ばれ、National Indie excellent awardを受賞、そしてアメリカ独立系出版界で権威があるベンジャミン フランクリン賞のHow to部門で金賞を受賞されました。

栢木 賞をもらえるとは思ってもいなかったので、本当に嬉しい瞬間でした。ただ、こういうジャンルで書いている人がいないので、良いチャンスかもしれないとも思っていました。

田口 お茶の煎れ方はもちろん、出涸らしの茶葉を掃除に使ったり、茶葉をいろいろなことに活用する方法、蕎麦や納豆などの日本食、ゆたんぽや風呂敷の使い方など、日本人でもちょっと忘れていたようなことに気づかされる内容ですね。

栢木 この本は、いわば日本の「生活の知恵」をまとめたものです。アメリカでは、禅とかお茶、生け花など、とても人気がありますが、日本のそのような文化を紹介しながら、身近にあるものを利用して、心をリラックスさせていく方法があるんですよということを紹介したかったのです。

こどもに教えるマナーの基本
あたりまえだけど大切なこと

田口 最近出版された『13歳からのマナーの基本50』もたいへん興味深く拝読しました。「お泊り会に行くときは寝袋を持っていこう」、「行った先の家の冷蔵庫を勝手に開けない」など、相手の家に迷惑をかけないようにすることが、丁寧に説明されています。

田口 最近はこういうことを注意してくれる大人が少なくなっていて、若い親たちも、子どもの友達やその家族と気持ちよく関わるにはどうしたらいいか迷っている時代だと思います。今だから、こういう本が必要なんだなと感じます。

栢木 私には孫がいるんですけど、孫の世代に何か遺せるものがあったらいいなと考えたときに、私もまた母や祖母などから受け継いできたものを遺したいと思い至りました。それが、このマナーだったのです。日本には、とても良いマナーがたくさんあるんですね。あたりまえだけど大切なことを伝えて行けたらと書いたものです。

田口 私たちは、「色でしあわせ」をキーワードに、色彩を通じて福祉を実現することを目指しています。色について何かエピソードなどがありましたら、お話いただけますか。

栢木 色にはこだわっているんですよ。部屋ごとに違う色の壁にしたり、庭の照明も7色に変化するものを自分で据え付けました。壁のペンキ塗りも大好きなので、少しずつ工夫しながら、心地よい空間を色でつくるようにしています。

田口 今日は興味深いお話をありがとうございました。

インタビューのなかでご自宅も見せていただきました

アントラム栢木利美’s Web site