色彩トップインタビュー
株式会社ファイン 代表取締役 清水直子文氏に、ヨシタミチコ理事がお話を伺いました。
歯ブラシの製造を始めて66年、会社として独立してから50年が過ぎました。
ヨシタ 「歯ブラシ」の製造で、一昨年創業50周年を迎えたそうですね。現在では、子ども向け歯ブラシや介護用品にも力を入れていらっしゃると思いますが、これまでの歩みについてお話しいただけますか?
清水 もともとは1948年創業のロウソク製造所からのスタートです。終戦直後、ロウソクに対する需要が非常に高まり、製造を始めました。その後、東大阪の地場産業
でもあった歯ブラシ製造に参入したのが1958年です。
1973年に歯ブラシ部門が分社化して独立しました。そこから一昨年50周年を迎えました。 私で4代目になりますが、売上は作れるけれど、歴史は自分たちにしか作れないものと思って頑張っています。
ヨシタ 乳児用の歯ブラシ「ぷぅぴぃ」は、グッドデザイン賞を受賞した製品ですね。また、歯医者さんも推奨する「虫歯0組」(現・ファイン組)など、子どものむし歯予防に関する面白い製品があります。このような製品開発の経緯などについて教えていただけますか。
清水 父が亡くなり、母が会社を継いだ際、事業のメインは他社のプライベートブランド製品の生産でした。 母は取引先への挨拶回りをしましたが、「私どもの製品
をよろしくお願いします」と言ってはみるものの、「自分の会社の商品がない!」と思い当たりました。そこから、自社製品の開発に取り組みます。子ども用歯ブラシを研究するきっかけのひとつは、歯ブラシによる子どもの喉突き事故でした。
子どものための安全な歯ブラシの開発が
介護の世界に入るきっかけ
清水 子どもがどうしたら喉を突かないか、そこから生まれたのが「ぷぅぴぃ」です。リング状の持ち手に短いブラシがついた形状ですが、リングの直径が口よりかなり大きいので、ブラシが喉までは届きにくい設計になっています。
この歯ブラシを開発したところ、大人でも手に障がいがあるなどして棒状のブラシを持てない人にも使える歯ブラシが欲しい!という声が上がりました。
また、脳梗塞などで倒れた方などに対しては、歯磨きをすることによってその後の回復に大きな違いが出てきます。毎日、口を大きく開けたり、冷たい水の刺激を受けることなど、歯磨きにはリハビリの要素もあるんですね。そんなことから、介護に向けた製品開発にも取り組むことになりました。
アイデアを形にする受託生産で夢をかなえる
ヨシタ 医師や研究機関などの要請で、一から製品開発されることもあるのですね。そういう際のご苦労などはありますか。
清水 以前は、「図面は無いけれど、こんなのできますか?」というような受託案件は、お受けできなかったのですが、私が社長を継いでからは、そのような仕事を受け
ていこうと思い立ったのです。他社では面倒がってやらないような仕事をあえて受けてみようと思いました。そうする中で、自社の開発力も強化できると考えたからです。
実際に製作してみると、「こういうのを作るのが私の夢だったんです」とおっしゃる歯科医の方もいらして、今では「こんな歯ブラシを作りたい」という思いを受け止めて、実現することにやりがいを感じています。
土に戻っていくモノづくり
新しい樹脂素材開発で特許を取得
ヨシタ 放置竹林などの余剰資材の竹から、新しい樹脂素材を開発しておられるというのに驚きました。また、竹以外の植物素材からも、樹脂開発が可能だとか。このような事業に取り組んでいる理由について、教えてください。
清水 2006年に静岡県の竹を利活用するプロジェクトの一環でできたバイオ樹脂製造技術です。植物素材を粉砕し、樹脂と混合する技術で特許を取得された方から、歯ブラシの柄に使ってほしいと依頼を受け、歯ブラシ用の樹脂を共同開発しました。
開発者がご高齢になり、この混合の特許技術を2021年に譲受しました。竹だけでなく葦やバナナの茎でも原料になります。ジュースを絞った食品加工など大量の野菜
くず廃棄物をできるだけ再利用したいという各社のお取り組みにもお応えできる事業です。
また、歯ブラシの材料としてだけでなく、この樹脂開発に注目してくださった企業から、ゴルフ場に生えている赤松を利用したゴルフティーの製作を頼まれたこともあります。これも、もちろん土に還ります。
清水 私どもは生産拠点がラボスケール、研究規模なのが強みだと思っています。小ロットから生産可能なので、例えば1軒のカフェがお店で出たコーヒーかすから樹脂を作りたいと言った要望に応えることができます。オリジナルの樹脂開発から、歯ブラシへの加工、パッケージのデザインまで一貫して行うことができるのです。現在
見やすくて、見る人を元気にする色で
介護商品をつくる
ヨシタ 日本色彩環境福祉協会では、「色でしあわせ」をキーワードに、色彩を通じて福祉を実現することを目指しています。色について何か思い出やエピソードなどがありましたら、お話いただけますか。
清水 当社の介護用品のデザインを担当している取締役の曲尾は、最初は高齢者向けの製品には落ち着いた色合いを考えていました。でも、あるとき数寄屋橋でご高齢の
女性が鮮やかな色の傘をポンと開いたのを目にしたのです。そこから色に対する意識が変わり、見る人が元気になる色で視認性の高い色をということで、赤寄りの橙を選び、このコップでもグッドデザイン賞をいただいています。
生まれたときから人生の最期まで
使っていただける製品を作り続けたい
ヨシタ 人生100年時代と言われる今、いつまでも情熱をもって仕事をするために必要なこと、大切なことはどのようなことだとお考えですか。また、これから成し遂げたいと思うことがあったら教えてください。
清水 「傍(はた)を楽にする」から「はたらく」という言葉があるように、人様の困りごとを解決することが仕事につながります。ですから、「他の方は、今、何に困っているのかな?」という感度を高く持つことが重要だと思っています。
「こんなことをしたらお役に立つかな」というようなことを、常に考えています。また、経営者としては、たくましくならないと社員を守れないなとも感じているので、さらに自分の殻をやぶっていきたいと思います。
百年企業となることを視野に入れながら、今後も介護などの分野で社会から求められる製品づくりをしていきたいと思います。
ヨシタ 今日は興味深いお話をありがとうございました。
ファイン株式会社 https://www.fine-revolution.co.jp/