色彩トップインタビュー
株式会社ぴんぴんころり 代表取締役 小日向えり氏に、田口さつき編集長がお話を伺いました。
高齢者の元気を支えるのはいつまでも働ける社会をつくること
田口 起業のきっかけは、80歳まで現役で働いていたおばあさまの存在だったということですが、そのことと、今のお仕事へと結びついた経緯をお聞かせいただけますか。
小日向 会社を立ち上げたのは、80歳まで働いていた祖母が、仕事がなくなった途端に元気がなくなってしまって、「どうやったら、おばあちゃんに元気でいてもらえるのかな」と考え始めたことが一番のきっかけです。
ほどよく生活にハリがあって、多少のプレッシャーがあることが、やはり元気のもとになっている。ですから、高齢者でも楽しく続けられる仕事があれば、ポジティブな意味で「ぴんぴんころり」の人生が送れるのではないかと思ったのです。社名にもそういう気持ちを込めています。
誰でも元気なうちは、続けられることをしたほうがいい。そういう意味で、高齢者の支援事業として「東京かあさん」を始めました。
初めから、このようなサービスが欲しいというニーズがあったというわけではありません。 「東京かあさん」は働く人のために作ったサービスなのです。
単なる家事代行ではありません
やり方を教えながら一緒にやります
田口 「東京かあさん」は、実家を離れて暮らす人にとって「第二のお母さん」のように頼れる存在ではないかと思います。登録している「お母さん」の平均年齢は、67歳だそうですね。「お母さん代行サービス」「お母さんができることはなんでも頼んでOK!」というのが、とても面白いと思います。この「東京かあさん」で提供されている内容について、教えていただけますか。
小日向 「東京かあさん」で提供しているサービス内容には、「掃除」、「料理」、「育児サポート」、「育児相談」、「一緒に出掛ける」などがあります。
例えば「掃除」でも、家事代行サービスのように「掃除をしに来てもらう」というのとはちょっと違います。私自身も利用者なのですが、「お母さん」が来てくれる日は自分も一緒に掃除をします。一人でいると、なかなか始められない断捨離も、一緒にするとはかどるのです。
デパートや動物園に一緒に出掛ける「お母さん」もいます。また、「料理」などでは、「お母さん」から作り方を教わったりもできるのが大きな特徴だと思います。
田口 1時間2,000円~2,400円というのは、とてもリーズナブルな設定だと思います。このような価格設定が可能になっている理由があれば、お聞かせください。
小日向 私は「三方よし」という近江商人の考え方が好きなのです。「売り手よし、買い手よし、世間よし」という考え方です。
利用者さんの9割は30代から40代の子育て世代ですし、価格帯を抑えることで、そういう方々に長く使ってもらいたいということがあります。
また、より多くのシニアに働いてほしいと思っているのです。
利用者さんがまるで
自分の子どものようになっていく
田口 会社の理念に「高齢者の生きがいを創出し、生涯現役社会をつくる」とありますね。
起業のきっかけとも重なる部分があると思いますが、高齢者にとっての生きがいとは、どんなことだと考えていらっしゃいますか。
小日向 やはり、無理のない程度でもいいから仕事を続けることは、とても大切だと思います。
東京かあさんの利用は、1日3時間くらいがほとんどです。このような時間も、シニアにとっては続けやすい条件になっています。
また、同じご家庭に通っているうちに、利用者さんのことが、まるで自分の子どものようになってくるのですね。このような心のつながりができることは、生きがいになります。そして、感謝されることが、とても嬉しいというのは、「お母さん」共通の思いです。
世代間ギャップを理解する上で
マインドセットの教育が必要になることもあります
田口 年齢を重ねることで、人としての英知や経験値は上がってくると思うのですが、どうしても体力や記憶力など若い人に劣る部分も出てきます。
そのような年代の方と一緒に働くうえで、気をつけていることなどがありますか。
小日向 東京かあさんの登録「お母さん」で最高齢は、83歳です。当然ですが、体力的に負担のあることや、心理的にも負担のあることは、「できません」とお断りしています。
ただ、「お母さん」のほうにも、利用者さんに対して親しみを込めて接することなど、お願いもしています。
また、結婚したばかりの若い利用者さんに、「次は赤ちゃんね」のような言葉を不用意にかけないなど、マインドセットの教育も必要だと思っています。
「自分を動かすものは何か?」と問いながら前に進む
田口 今、人生100年時代と言われますが、いつまでも情熱をもって仕事をするために必要なこと、大切なことはどのようなことだとお考えですか。
小日向 私は、自分がどんなことでモチベーションが上がるのか考えます。例えば、「頼まれなくてもやっていること」を掘り下げていくと、自分を動かしているものが何なのか分かります。自分が何でやる気が出るのか理解することが大切だと思っています。
芸能の世界から起業家へと転身しましたが、「人を喜ばせたい」ということは共通しています。「改善すること、成長すること、目標に向かって頑張ること」が好きなので、いろいろな人とつながりながら、仕事をしたいと思っています。
「生きがいのある人生」が一番のしあわせ
田口 日本色彩環境福祉協会では、「色でしあわせ」をキーワードに活動していますが、小日向さんは人の「しあわせ」とはどのようなものであるとお考えですか。
小日向 しあわせって何だろうと考えると、案外むずかしいですね。今の私は、家で犬たちと過ごしているときに、しあわせを感じますが(笑)…。
シニアの方たちのしあわせには、4K:おカネ(経済)、からだ(健康)、こころ(生きがい)、家族(パートナー、仲間など)が大切と言われます。ですから、これらを提供できる仕組みづくりに取り組んでいきたいと考えています。
やはり誰にとっても一番のしあわせは、「生きがいがあること」だと思います。シニアの方には、これまで培ってきた「人生の力」を発揮して、いつまでもイキイキと過ごしていただきたいと思っています。
田口 本日は貴重なお話をありがとうございました。